「あっ、お前またっ……」
背後から遥風の苛立ったような声が聞こえるけれど、お構いなしで控え室から飛び出す。
「はは、遥風お前また避けられてるやん」
「何があったか知らないけど100お前が悪いな!!」
飛龍や明頼の揶揄う声がどんどん遠ざかって、やがて聞こえなくなったところで、私は一人大きなため息を吐いた。
…………あぶ、なかった。
うっかり遥風に話しかけられてしまうところだった。
LUCAトレイニー合宿が終わってからというもの、私は今までにないほど全力で、遥風との会話を避け続けていた。
その理由は、大きく分けて二つ。
一つ目は、単純に自分の軽率な行動を深く反省したから。
翔の警告で、自分がやっていることがヤバいことだとようやくきちんと自覚できた。
もし私と他の参加者のキス現場なんかがすっぱ抜かれ、恋愛疑惑が浮上したら……エマプロはBLが蔓延したとんでもない番組だと世間に認知され、全く関係ない参加者なんかもそういった色眼鏡で見られる可能性がある。
なんなら一期や二期から出た先輩方にも風評被害が行ってしまう恐れだってあるのだ。
私は、そこらへんのリスク管理が完全に甘かった。遥風や京からのスキンシップがエスカレートしていくにつれ、どこか麻痺してしまっていたのだ。
けれど、合宿での過ちで再確認した。
私は、ゴシップになりかねない、他人にとってリスクになり得る行為は全力で慎まないといけない、と。
そして二つ目の理由は──
こちらも単純、天鷲翔が怖いから。
あれからというもの、天鷲翔の私への態度はさらに悪化していた。
練習中私にばかりキツく当たったり無視したりするのはもちろん、前までは気にしていなかった異性との距離感についてもすごく言ってくるようになって。
遥風とも義務的な会話はするけれど、少しでも距離が近くなったり、会話の雰囲気が怪しくなり始めたりすると、翔の視線があからさまに強くなる。そういう場合、私は瞬時に距離を取るようになった。
翔の監視は、決して私の気のせいなんかじゃない。実際、一度逃げきれなくて練習中にハグされてしまった日の夜、翔からLINEで5cmくらいの長文説教メッセージが送られてきたりしている。怖い。
というわけで、私は何が何でも遥風と接近するわけにはいかないのだ。あわよくばこのままあちら側の熱が冷めてくれればいいんですけど……。
急に避けてごめんね、と心の中で遥風に謝罪しつつ、私は疲労感で重たい身体を引きずるようにして、自室に戻るのだった。
