「じゃ、スタジオ移動しまーす!」
スタッフの指示に従い、参加者たちはグループに分かれてそれぞれのスタジオへ向かった。
案内されたのは、信じられないほど設備の整った広いダンススタジオ。
ピカピカに磨き上げられた床、一面ガラス張りの壁、最高級ブランドのスピーカーにウォーターサーバーまで完備という充実ぶり。
「うおお!やべぇ!」
「水うめーっ!」
興奮したメンバーたちが、早速鏡の前で踊ったりバク転したり、ウォーターサーバーの水をがぶ飲みし始める。
まるで動物園。
……これ、誰がまとめるの?
このままだと、ぐだぐだになる未来しか見えなかったが──
「はい集合。時間ねーし、とりあえずパート分けから決めようぜ」
意外にも、冷静に場を取り仕切ったのは皆戸遥風だった。
考えてみれば、このチームで唯一のアイドル経験者であり、チーム最年長の高校3年生。リーダー適性は抜群だ。
アイドル経験者なだけあり、話し合いには手慣れた様子。
「自分Bのパートやりたいっす!」
「戸塚くんB希望ね。他いる?いない?……じゃ一旦決めちゃうよ。音キツかったら後から相談して」
「あざす!」
輪の中心で、テキパキとパート分けを進行していく。
意外としっかり者じゃん、と内心で少し彼のことを見直した。
一方で、新海飛龍。
グループ最高順位で、遥風と同い年である彼もリーダー的存在になり得るかと思ったけど……今日の彼は、驚くほどテンションが低かった。
パーカーのフードを深く被り、膝を抱えて、今にも寝落ちしそうになってる。
ちょっとちょっと、炎上しますよ?
流石に放っておけなくて、肘で軽く小突く。
すると、飛龍は少し体を震わせ、のそりと顔を上げた。
「あの、美味しいパート全部取られちゃいますよ?」
「パート〜……? 余ったんでええよ」
ぽけーっ。
いつものエネルギッシュさはどこへやら、完全に腑抜けている。
どう声をかければいいものか分からず戸惑っていると、遥風が呆れたように口を開いた。
「だめだろ。飛龍くんが最高順位なんだから、ちゃんと見せ場作らないと」
「……あかん……なんか体力使い切ってもーた、話なんも入ってこーへん」
「……」
その言葉にさすがにピキッたのだろうか、譜面をなぞっていた遥風の手が止まる。
不機嫌そうに眉根を寄せる遥風。
一瞬でムードが険悪になった。
まずい、これ、ちょっとヤバいやつだ……。