と、絶体絶命の状況に陥っていた──
その時。
「遥風」
遥風の肩越し、数メートル先から、聞き覚えのある声がかかった。
そこに立っていたのは──天鷲翔。
寝起きで出てきたのだろうか、いつも自然にセットされている髪が無造作に下されていて雰囲気が違くて、一瞬誰だか分からなかった。
長めの前髪に隠れた瞳は、彼にしては珍しく疲れたような色を滲ませる。
昨日、眠れなかったのかな……。
「……何」
天鷲翔の呼びかけに、さっきまでと別人みたいな、冷たい声音で答える遥風。
そんな遥風に微塵も怯むことなく、翔はゆったりとこちらに歩み寄ってくると。
「お前さ、カンナさんに呼ばれてたよ。移籍取り消しの手続きとかじゃない?」
気怠げに髪をかき上げながら、そんなことを言った。
その言葉に、露骨に不快そうな表情になる遥風。
「……え、今?」
「俺に言われても仕方ないって。早く」
有無を言わせぬ翔の声音に、遥風はちょっとイラッとしたようだったけれど──
巫静琉に呼ばれているとなると、流石に逆らえないみたいで。
「……千歳に変なことすんなよ」
そんな不機嫌そうな言葉を残し、ふいっと踵を返した。
そのまま、彼の背中がLUCAの建物内に消えたところで──
隣に立っていた翔が、呆れのため息混じりにぽつりとこぼす。
「千歳に変なことしてんのは自分でしょ……」
その横で、私は少し驚いて硬直していた。
……今。
本当に、遥風を呼んでこいって言われたのかもしれないけど。
タイミング的に──私を助けてくれたようにも見えた。
