さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



…………。

…………いや、うん。


たしかに、胸を締め付ける補正具は苦しいし、体調を崩していたのなら外すべきだよね。それは分かる。理解できるんだけど。

それでも、やっぱり付き合ってもない異性にここまでされるっていうのは、かなりの抵抗感が……。


湧き上がる羞恥心をなんとか堪えつつ、私は肩から滑り落ちかけていたパーカーの布地を握りしめる。


自分の服を着せるにしても、もうちょっと防御力のあるものを着させて欲しかったな……。


感謝反面、文句反面といった複雑な心境で少し口を尖らせていた──

その時だった。


ガチャッ。


扉が開く音がして──


「……千歳?」


甘さのある少し掠れたような声音が、私の名前を呼んだ。


ハッと顔を上げると──

立っていたのは、遥風。


さらりと指通りの良さそうな濡羽色の髪は、少し無造作に乱れていて──ドライヤーでざっと乾かしてきたみたい。

肩の落ちたゆるい部屋着、ふわりと漂う石鹸混じりの柔らかな香りで、シャワー後なんだろうな、なんて察する。

遥風に女の時の姿を見られるのはすごく久しぶりで、思わず少し身体に力が入ってしまう。


と、そんな私を前に、遥風はツカツカとこちらに歩み寄ってきて──

ベッド脇に置いてあったチェアに腰を下ろすと、テーブルライトの側に置いてあった小さな体温計を手に取った。