さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



…………。


…………本当に?


自分のことなのに、どこか他人事のように感じてしまって、しばらくは感情が湧き上がってこなかった。


けれど、数秒間、沈黙した後。

徐々に、けれど確かに、この事実が心の奥底まで染み込んでいく。


──そっ、か。

勝ったんだ。


足元の地面の感覚が、ぐらぐらと不確かで。

体の芯がじわじわと熱を持ち──

視界が、ぼやけて微かに滲む。



これで遥風は、日本に残ってくれるんだ。

栄輔がこの経験に責任を感じる必要も、なくなる。

そんなふうに思えば思うほど、胸の奥がきゅうっと締めつけられて──



一滴の涙が、こぼれた。



初めてだった。

自分自身の表現が、誰かの役に立てたと感じたのは。

私なんかの表現でも、誰かの心を動かせたのかもしれないと思えたのは。



私のステージに歓声を上げてくれる人がいて、この結果で救われた人が確かにいて。

ようやく、自分の積み重ねてきたすべてが手に馴染んだような感覚に──

胸の奥が、どうしようもなく満たされていく。


「っ……」


いくら堪えようとしても、じわじわと滲んでいく視界。

やばい、あんまり泣いたらメイク崩れる……。


そんなことを思って、慌てて袖の端で涙を拭った──

その時。


「Chitose」


頭上から、静かな低い声が落ちた。

ゆっくりと、顔を上げる。


傾き始めた太陽の光を背に立っていたのは──

ローガン・ヒューズ。