さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


当然だ。


今の千歳の表現は──

かつて『悪魔に魂を売った』と称された黒羽仙李の少年時代の表現に、酷似している。



彼がかつて観客に植え付けた震撼、そして崇拝を。

千歳は今この瞬間、全く同じように舞台に刻み込んでいる。



見る者を、狂わせる美。

正気を疑わせるほどの、圧倒的で繊細な感情表現。

先ほどまで激しいブーイングをしていた観客たちは、今や無意識に涙を流し、壇上の天使に見惚れている。



そして──隣。

無言で凍りついたようにステージを見つめる睦に、俺は静かに声をかけた。



「『EMERGENCE(創発)』……って、知ってるか」



睦は視線をこちらに寄越さない。

ただ、ぴく、と微かに眉を動かしただけ。

構わず続ける。


「機械学習の中で起こる現象なんだよ。AIはさ、学習データが少ないうちは、ちまちまとした理解しかできない。バラバラの点をただ記憶してるだけって感じでな」


──そう。

つい昨日までの榛名千歳は、まさにそうだった。


言われた通りに修正はする。

でも、本質には踏み込めない。

だから、彼のパフォーマンスは空っぽで、無機質だった。


「けど、ある『学習量』を超えたところで、AIは急激に性能を上げるんだ。点と点だった知識が繋がって、線になる。その線がやがて面を作って、『意味』を持ち始める。結果、感情も自我も持たないはずのAIが、まるで『魂』が宿ったみたいに動き出す──そんな、奇跡のタイミングがある」


そこで、俺は言葉を切る。

魅入られたようにステージ上の千歳から視線を動かさない睦に、そっと。



「今が──まさにその瞬間だと思わないか、睦」