「…Error(エラー)」
目を細めながら、ルシが小さく呟く。
湧き上がる自身の感情に、システムが追いついていかない。
完璧だったはずのボーカルが、僅かに、美しくずれていく。
『Now every note I sing
Is for you, my everything
(今、僕の全ての音は君のためだけにあるんだ)』
表現に『段階』をつけ、ギャップを生み出すことで、感情の発露を劇的にするテクニック。
──なんという策士だろう。
表現力の幅は、変わっていないはず。
なのに、観客に、これ以上ない強い印象を残す。
『今ある力で、一番勝てるパフォーマンス』
その最適解を叩きつけられ、俺は思わず笑ってしまった。
本当に──
大したものだ、榛名千歳。
もう既に、観客席の色が、完全に塗り替えられている。
ブーイングの声などもうどこからも聞こえない。それぞれが、息を呑んだまま瞬きも忘れてステージに見入ったり、あまりの衝撃に、瞳を潤ませて硬直したり。
ようやく訪れた静けさの中、千歳はスタンドマイクからマイクを取ってステージをゆったりと歩き出す。
風になびく絹糸のように柔らかな髪が、太陽の光に照らされて美しく透ける。
非現実的に整った横顔、その小さな唇が、ふっと緩む。
その姿は、まるで──
呪縛から解き放たれ、自身の足で立って歩けるようになったことのメタファーへのようだった。
