怒鳴り声や差別的な罵声が飛び交う中、空気を切り替えるように──
静かなデジタルノイズが鳴って。
冷たいシンセサイザーの音が、ゆったりとしたテンポで立ち上がった。
《Track Title: LOVE:CODE》
ひんやりと澄んだ、幾何学的に並んだ音粒。
至極整然とした、落ち着いたイントロ。
鷹城葵の本領が発揮された、寂しげかつどこかノスタルジックなメロディラインに、会場の空気が自然と引き締められる。
そして、ステージ中央。
未だに飛び交うヤジの中──
榛名千歳が、顔を上げた。
その瞳に映るのは、空虚。
怒りも、緊張も、悲しみさえも存在しない。
底なしの無表情に、飛び交っていたブーイングが──
ほんのわずか、音を潜めた。
「……Huh?」
左隣に座っていたルシが、その異様な雰囲気に気がついたのか、余裕綽々で背もたれに預けていた身を乗り出した。
戸惑いに近いどよめきの中、静かにボーカルが始まる。
『Booting up again, another empty show
Strings attached, I smile on cue, just like they know
(また起動する いつも通りの空っぽのショー
糸で操られたまま 誰かの望むまま)』
抑揚のない、まるでプログラムされたような完璧な音程。
オートチューンもロボティックエフェクトも一切使われていない。
それなのに──何故か『機械音』としか思えない。
微かに、目を細める。
利発だとは思っていたが……想像異常だったな。
まさか、短所である『表現力の欠如』を、意図的に表現として成立させるとは。
その思考の反転が鮮やかで、口元が緩んでしまう。
