むせ返ってしまいそうなほどの熱気の中、俺は一人、ステージ袖に控えているだろう彼へと意識を向ける。
昨日の夜遅く、曲を変更したいと申し出てきた榛名千歳。
どうしても勝たねばならないという危機感の中、彼なりに絞り出した最善の判断だったのだろう。
俺は、その変更案を聞いた瞬間──
もしかしたら勝てるかもしれない、と思った。
しかし、ここまでローガンとの圧倒的な差を見せつけられると、そんな希望はかき消されてしまった。
今、彼は一体どういった心境でいるのだろうか。
自分のステージが勝敗を決めるという状況になった今、責任感で押し潰されそうになってはいないか。
やはり、彼にLUCAの洗礼はまだ早かったのかもしれない。
そんな思考が脳裏をよぎりかけたけれど──
いや……違う。
今までの彼を見る限り、『榛名千歳』という人間は、そんなにヤワじゃない。
どこまでも冷静で、どこまでも繊細で。
そして、どこまでも、芯の強いパフォーマー。
きっと彼は──今、この瞬間も。
脳内で、コンマ一秒単位で構成されたパフォーマンスを緻密に再生しているはずだ。
どう視線を移動させ、どこで微笑み、どんな歌声を出すか。
その全てを、勝つためだけに設計している。
あいつは、そういう人間だ。
