さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

すると──

「さっきからあいつ、俺の榛名千歳にベタベタしすぎ……ブッ殺す」

──小山明頼が、鬼の形相で立っていた。
お前もかよ……。

「落ち着け明頼、あと別にお前のじゃねーから!」

今にも暴れ出しそうな明頼を、兎内雪斗が必死に押さえこんでいる。

「離せっ!アイドルはファンのもんだろーが!推しと絡んだ異性は刺せ!」

「アッキーウケる〜。俺のガチ恋でそういうコいたわ⭐︎」

「あ?ウケねぇよ!ってかちょっとは手伝え陽斗!」

「今ネイルケア中〜」

双子の金髪の方、兎内陽斗は、やすりで爪を磨きながらのほほんとしている。完全に他人事モード。
双子の片割れが苦労してるっていうのに、あまりにもマイペース。

初日に栄輔から聞いたところによると、兎内双子と小山明頼は3人とも同じ芸能事務所『Monet Entertainment』、通称モネに所属しているという。

モネといえば、日本トップクラスの芸能事務所。

人気アイドルグループ『femto』や、陽斗が所属していた『LiME POP!』を輩出した大手中の大手だ。
エマプロは、こうした他事務所の練習生も受け入れることで、オーディション全体のレベルを上げているらしい。

確かに、今回のエマプロ3期も実力者は多いけど──それ以上に、変な人が多すぎる。
しかも、遥風に秘密がバレたことによって、私の周りの人間関係が一気に騒がしくなってしまった。
もう既に疲れてるんだけど、果たしてこの先、私の精神はもつのかな。

そんなふうに先行きを案じていた、その時。

「10分後、収録始まりまーす!」

スタッフのよく通る声が響き、今にも勃発しそうだった修羅場が強制終了した。

ナイスすぎるタイミングです、スタッフさん!!
心の中で全力の感謝を送り、胸を撫で下ろす。

明頼は未練がましく遥風を睨みつけ、雪斗は肩で息をしつつ、大事にならなかったことに安堵しているような表情。
陽斗は……まだ爪を磨いている。

二次審査の内容が告げられる前から、既に波乱の予感しかしない。
これからの私のオーディションライフ、きっと、一筋縄ではいかないんだろうな……。