さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


ぶつけたい言葉は、山ほどあるのに。

何故か、そのどれもが喉に引っかかって、出てこない。


そんな俺を前にして、千歳はスッと手を差し出す。


「……返して。時間が無い」


相変わらず微塵の揺れもない声。



──何かが。

何かが、おかしい。



千歳は才能も無く、技術も未熟。

ローガン・ヒューズに勝てる可能性は、1%にも満たないくらいで。


そんな奴が何を言おうと、無謀な虚勢にしか見えないはずなのに。



一体、何故だろう──



彼の『勝たなきゃいけない』という言葉が、妙に現実的な『選択肢』に聞こえてしまうのは。



……やめよう。

そんなはず、あるわけがない。


これはただの虚勢で、願望。

榛名千歳の落ち着きは、彼がいまだに『奇跡』なんて都合のいいものが起きると信じているせい。


正しいことをしてきた自分たちに、最後には『神様』が微笑んでくれる──

そんなおとぎ話みたいな希望に、縋っているだけ。


……そうだろ?


必死に、自分に言い聞かせる。


つまらない幻想なんて、抱くだけ無駄だと。



でも。

それでも──



理屈じゃ説明できない。

胸にまとわりつくようなこの違和感だけは、どうしても振り払えないままでいた。