さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



……さて、榛名千歳。

一体どうするつもり?


遥風の『救世主』として、お得意のポエムで運営側を口説き落とすか?

そんなことをしたって、このコンテンツがLUCA主催である以上、改善は見込めない。


見なかったふりをして、LUCA組に有利な空気をそのまま活かすに決まってる。

自陣営を勝たせたい彼らにとって、この混乱は──むしろ都合がいい。


まぁ、おそらく千歳はそんなことに気が付かず、怒りのままに立ち上がってしまうんだろうけど……。

そう思って、彼に目を向けた、その瞬間。



呼吸が、止まった。


何故か。


──千歳が、ステージを見てすらいなかったから。

表情ひとつ変えず、至極落ち着いた様子で、自分のスマホで練習動画を確認している。



…………は?



何、それ。

どういうつもり?



明らかにおかしいこのブーイングを前に、何もしないなんて、千歳らしくない。


……まさか、諦めてるわけじゃないよな?



彼のあまりにも他人事のような態度に、脳内がぐらりと煮え立つような怒りに襲われて。

気づけば俺は、ツカツカと千歳の元に歩み寄り──


勢いよく、彼のスマホを奪い取っていた。

──千歳が、ゆっくりと顔を上げ、耳からイヤホンを取る。


相変わらず、憎たらしいほどに綺麗な顔立ち。

その瞳が、俺をまっすぐに射抜く。


感情の波が一切ない、凪いだ水面のような瞳。

その妙な落ち着きに、なんとなく言葉では言い表せないような違和感を覚えつつ──


俺は動揺を誤魔化すように、強い口調でぶつける。


「状況分かってる?」


俺の強い言葉に、今までなら萎縮していたはずの千歳。


けれど──何故か、今日は違った。


表情ひとつ崩さないまま、強がるでもなく、焦るでもなく、ただ事実を述べるように。


「……俺が勝たなきゃいけなくなったんでしょ」


静かに、落とした。

感情の波が存在しないその声音に、思わず、ぐっ、と言葉に詰まる。


──そうだよ。


分かってるなら、なんで──



そんなふうに、落ち着いていられるんだよ?