さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


そんな光景を前に、栄輔は、何が起こっているのか分からないというような、動揺の色を隠せない表情だった。

視線は泳ぎ、足が止まりかけている。


まずい。

栄輔は──


『精神の安定』が無いと、曲の中に入り込めないのだ。


ただでさえ繊細な彼が、こんなにも、観客たちの敵意を浴びて。

集中なんて、できるわけがない。


「…Just so you know, it wasn’t us who set that up.(……言っておくが、これを仕組んだのは俺たちじゃ無いからな)」


同じく自分のスマホでその動画を確認したのであろうローガンが、流石に少し慌てたように自己弁護した。


……分かってる。

この動画に皆戸遥風が映っていないことからも、その犯人は既に明確。



──式町睦。



遥風と栄輔が共にデビューするのを妨害するため、照明落下事故を工作して栄輔に複雑骨折までさせるような人間。


自分の望みを実現するためには手段を選ばない彼なら──

きっと、やる。


そして、そのことに気がついているのは榛名千歳も同じはずだ。


これで栄輔が負けた場合、遥風のレーベル移籍は確定したようなもの。

結局、千歳は自尊心をへし折られ、栄輔はトラウマを植え付けられ、遥風の状況も何も変わらず──
ただ、現実を悪化させて終わることになる。


──やっぱり、身の程知らずの正義面は、結局悪い結果しか招かない。

こんなことなら、おとなしく遥風をLUCAに引き渡した方がよっぽど合理的だったのに。