さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



──ガチャッ。


スタジオの扉が、やけに重たい音を立てて開いた。

私と遥風は、本能的にその気配を察知して振り返る。


スタジオの空気が、一瞬にして冷え込んだかのような錯覚。

そこに立っていたのは──


式町睦。


先ほど、こちらに到着したばかりなのだろうか。

艶のない黒のキャリーケースを引いたまま、完璧に仕立てられたスーツに身を包んで立っていた。


無機質なその視線が、息子を一瞥する。

──だが、彼の眉は、ほんの僅かすらも動かなかった。

その反応で、遥風の吐血はやはり日常的で、触れるまでもないことなのだと察してしまう。


「遥風。今日も深夜練はあると言ったはずだ」


低く、研がれた刃のような声音。

それと共に、睦はツカツカとこちらに歩み寄ってくると、乱雑に遥風の腕を掴む。

そのまま、無理矢理彼をスタジオから出引きずり出そうとする睦に、絶句した。


……そんな。

今の状態の遥風を、あの暴力だらけの深夜練に行かせようっていうの?


そんなの、黙って見てられるわけがない。


「ちょっと、待っ──!」


怒りに任せて、睦の背後に声をかけようとするけれど。


「大丈夫」


遥風本人の制止に、何も言えなくなる。

そのまま、遥風は睦に連れられてスタジオから姿を消した。


ガチャン。


再び扉が閉まる音が、やけに無機質に響く。


静寂が戻った部屋の中、一人残された私は、しばらく呆然として遥風たちが消えた扉の方を見ていたけれど。

次第に、私の中に、その理不尽な扱いに対する苛立ちが膨れ上がっていった。