さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「……遥風っ?!」


取り乱して名前を呼ぶと、遥風は視線だけちょっとこちらに向け、『大丈夫』とでも言うように口を覆っていない方の手を、ひら、と軽く振る。


「……これさ、鎮痛剤の副作用。最近、殴られっぱで、薬飲んでないとヤバくて。よくあるんだよ」


ちょっと苦しげに笑いながら、あっさりそんなことを言った。

私は何も言えないまましばらく呆然としていたけれど──
ようやくハッと我に返って、ポケットからティッシュを差し出す。


「使って」

「……ごめん。気まずいな」


ちょっときまり悪そうな表情で私からティッシュを受け取り、手慣れた様子で吐血を処理する遥風。

その何も気にしていないような態度を前に、私の心臓がギュッと痛いほどに締め付けられた。


──『よくあるんだよ』って。


そんなこと、笑って言うことじゃないのに。

それを、なんのてらいもなく『気まずいな』なんて一言で済ませてしまえるほど、 彼にとって、こんな日々は──当たり前のものなのか。



……おかしい。



彼の置かれている環境は、何もかもがおかしすぎる。

きっと、私なんかが想像するより何倍も厳しい地獄を、私なんかよりも長い時間、ずっと経験させられているんだ。


こんなに、優しい人なのに。
こんなに、綺麗な人なのに──


なんで、ここまで乱暴に扱われなきゃいけないの。


怒りとも、悲しみともつかない黒い感情が、胸の中で沸々と湧き上がっていく──

と、その時だった。