さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「……もう大丈夫?」

「うん。ありがと、遥風」


少し心配するような遥風の声音に、私はニコッと微笑んで答えた。

遥風がいないと、危うく自爆するところだった……環境が変わったストレスや実力差を目の当たりにした焦りで、全く冷静になれていなかった。

小さくため息を吐く私を、遥風はしばらく何か言いたげに見つめていたけれど。

数秒後。


「千歳」


ちょっと硬い声で名前を呼ばれて、顔を上げた。

どこか躊躇うように視線を落とす遥風。何か真面目な話でもしようとしているみたいな空気に、背筋が伸びる。

言葉を探すような間のあと──
顔を上げ、再度口を開く遥風。


「俺、さ……」


と、私を真っ直ぐに見て、何かを言いかけた──

その時だった。


「っ……!」


目の前で、急に口元に手を当て、私から身体を背ける遥風。

何事かと息を呑んだ、ほんの一秒後。


──ゲホッ!


乾いた咳き込みとともに、彼の指の隙間から──

ぽた、と赤い液体がこぼれた。


「…………え?」


思考が、凍りつく。

数秒間、脳が目の前の状況を処理するのを拒んでいた。


そして。


……吐血だ、とようやく気がついたのは、数秒後だった。