さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

「いいよね。ってか、呼び捨てでいい?距離感じるし」

「いーよ。昨日のは冗談だし」

まんざらでも無さそうに笑う遥風。
……うん、やっぱりこの路線で正解みたい。

そう思った矢先──不意に、耳元に唇が寄せられる。

「……ってかさ。その靴ってやっぱシークレットシューズ?何cm盛ってんの?」

「!!」

ちょっ……何してんの?
ここ、全方位スタッフに囲まれてるんだけど。
何かの拍子でカメラのマイクに拾われてたらどうするつもり。もう少しリスク管理ってものを考えて発言してよ。

けれど、カメラの前で下手に動揺を見せるわけにはいかない。内心の苛立ちを押し殺しつつ、表情はあくまで『少しムッとした』程度に抑えた。

「……10cm」

「うおっ、やば。そんだけ盛っても170届かないあたり、ほんとちっちゃいんだ」

「……できるだけ人前でそういう話しないでもらえる?」

眉を寄せて遥風を見上げると、彼はほんの一瞬だけ目を丸くした後、ふっと口元を緩めた。

「上目遣いかわいー。ドキッとした」

「ちょっと、話聞いて……!」

抗議の声も虚しく、遥風は慣れた手つきで私の頭をポンポンと撫でてくる。

噛み合わない会話にむしゃくしゃしていると、ふと、どこからか強い視線を感じた。

その方向を辿ると、そこには……栄輔、翔、椎木篤彦の3人組。

この3人は、最近よく一緒に行動しているのを見かける。確か、椎木篤彦は栄輔とルームメイトだった。
多分その繋がりで、あのグループに引き入れられたのだろう。

信じられないものを見るかのように目を見開き、唇を震わせる栄輔。
そんな栄輔を心配そうにしつつ、こちらに怪訝そうな視線を向ける翔。
こちらを見てはいるが、何を考えているかは分からない、飄々とした態度の篤彦。

遥風を見上げると、涼しげな表情を保ってはいるが、きちんと彼らの存在を確認しているようだった。

なるほど、彼らに見せつけようとして、わざと距離が近くなるような話題を選んだわけね。

なんか、顔は少女漫画のヒーローフェイスなくせに、やることは陰湿なライバル悪女っていうか、なんていうか……。

翔は、さすがに見過ごせないと判断したのだろうか、カツカツと靴音を響かせながら歩み寄ってくる。
栄輔が慌ててその背中を追い、篤彦も興味深げな表情を浮かべて続いた。

うーわ、来ちゃったよ、どうすんの……。