さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



練習を始めて、三時間ほど経った頃。


「……っ」


体力に、限界が来た。

視界が揺れて、思わず床に片膝をつく。
視界が、グラグラと液状化したみたいに揺らいでいる。

思えば、さっきからずっと頭がガンガンと痛かった。頬が、若干熱い。


……海外に初めて来た人は、その環境の変化に慣れないため体調を崩しがちだと、どこかで聞いたことがあった。

そのことはきちんと意識して、私なりに万全な対策はしてきたはずだった。飛行機できちんと寝たし、移動中もできるだけマスクをするようにしていたし、水も合わなかった時のために日本のものを持参してきた。


──なのに。


「なんで、今……」


じわり、と視界が滲んだ。

悲しさと、悔しさと、自分への怒りがぐちゃぐちゃになって、抉るような痛みと共に熱いものが込み上げる。


遥風を守りたいって。

彼が夢を叶えて花開くところが見たいって──私の願いは、それだけなのに。




どうして。

私が、私自身が、彼の夢への妨げになっているのだろう。




全部、私のせいで。

私が至らないせいで、遥風は移籍を強いられて。
あの狂った父親から一生離れられずに生きるしかないんだ。




息が、うまく吸えない。

肺が縮こまるように苦しくて、喉が痛いほどに乾いている。


倦怠感が身体を支配し──

立ち上がろうとしても、立ち上がれない。



「……動け、動け動け動けっ……!!お願いだからっ……!!!!」



震える手のひらで、何度も何度も、自分の脚を強く叩く。


広がるのは、痺れだけ。

私の脚の筋肉は既に限界突破していて、これ以上力が入る気配は無い。


悔しくて、情けなくて、膝を抱きしめるようにその場にうずくまる。

耐えきれなくなった涙が、頬をつたってぽたりと床に落ちた。



泣いたって、何も変わりっこないのに。

本当、何やってるんだろう、私──



自己嫌悪。

ストレス。

焦燥感。

無力感。


その全部で脳内が埋め尽くされ、思考がぐちゃぐちゃになりかけていた──


その時。


ガチャ。

スタジオの扉が、静かに開く音。


振り返ると、そこに立っていたのは──

遥風だった。