一次審査が終了し、大勢いた参加者の過半数が会場から姿を消した。

昨日までは、どこか他人事のように感じていたけれど──翌朝、改めてスタジオに集まった人数を見て、ようやく実感が湧く。
明らかに減った参加者の数。ただでさえ広いスタジオが、さらに広く、閑散とした空間に思えた。

今は撮影前。参加者たちだけでなく、カメラマンやスタッフが出入りし、収録の準備が進められている。
その場に漂う緊張感を肌で感じながら、私は静かに息を整えた。

──昨日、色々とヤバいことはあったけど。
起こってしまったことは仕方ない。

今まで通り、できることをきちんとやるだけだ。

「よっ」

不意に、ガシッと肩を組まれる。
背後から伝わる熱。思わず身体がこわばる。
この軽いノリ、甘さのあるクール系イケボ、そして爽やかな柑橘系の香り──。

「……おはようございますー、遥風くん」

「はよー」

至近距離に、完璧な王子様フェイス。
昨夜の、髪型ノーセット+重そうな生地のパーカー1枚という治安の悪そうな雰囲気とは打って変わって、きちんとセットされたヘアスタイル+オーバーサイズのシャツ+ニットベストという撮影用の正統派ルック。首を傾げると、細長いチャームピアスが揺れる。

……顔だけは死ぬほど良いんだけどな、この人。

「今日もカッコいいですねー。さすがです」

「げ、愛想良すぎて気持ちわりぃ」

いや、そうしろって言ったのはあなたでしょうが。

内心ツッコミを入れつつ、表情には出さない。周囲にはスタッフがウロウロしてるから、優等生の仮面は外せない。
それにしても、昨日の様子からして、きっと朝から絡んでくるだろうなとは思っていたけど──予想通りだったな。

私にとって、今の皆戸遥風は『爆弾』そのもの。
少しでも扱いを間違えれば爆発(炎上)し、私も爆風被害を受けること間違いなし。
それを踏まえて、昨夜、色々と考えた結果──私は彼に、全力で媚びを売ることに決めた。
彼には嫌われるんじゃなくて、逆に仲良くなって手懐けて、あわよくば利用してやればいい。
遥風はそこまで頭良くなさそうだし、多分いけるはず。

問題は、どういう『榛名千歳』が遥風にウケがいいのかってところ。
とりあえず思い切り媚びを売ってみたけど、なんか違うのかな……じゃあ、もっと素を出してる風にする?

「了解。じゃあ敬語やめる」

「げっ、変わり身やば」

顔を引きつらせつつ、どこか楽しそうな遥風。
おだてるより、距離を詰めた方が好感度は上がるタイプらしい。
結局、彼のやりたいことは、栄輔に『俺は榛名千歳と仲良し』マウントを取り、勝ち誇ること。
だったら、こっちも彼の求める『理想の関係性』を演じよう。