私と代わってマイクの前に立ったユアンは、星屑のような銀髪をかき上げながら言う。
「A cappella, right? Cool. Just don’t blink.(アカペラでいいんだよな?オーケー。……瞬きすんなよ)」
挑発するようにヴァレンシアを見つめると、彼は一つ、息を吸い込み──口を開いた。
と、その瞬間。
──ざぁっ、と強い風が吹いたかのような、空気の反転。
空気を切り裂くように、ユアンの奏でる旋律が空間を満たした瞬間──
この世界の主導権は、完全にこの小さな少年の手に渡っていた。
それは歌、と言うよりも、叫びに似たボーカル。
飾り気のない、飽和寸前の感情をそのまま声にしたかのような。
こちらの身体を大きく震わせるようなその迫力に、その場にいた誰もが言葉を失った。
……ああ、そうか。
求められているのは、これなんだ。
彼の奏でる音楽に、『計算』なんて微塵もない。
脳を一切使っていない。使っているのは、心だけ。
ただ、自己を伝える手段としての──『魂』の音楽。
「God… his voice. No matter how many times—(うわ……何回聴いてもヤバいな、この声)」
「It’s like he’s bleeding through his voice…(声で、血を流してるみたい……)」
圧倒されたかのような英語の囁きが、あちこちから漏れる。
全然、違う。
曲調は同じようなバラードのはずなのに、私とは別物。
私がなんとか絞り出そうとしているものを──
彼は、『溢れ出すもの』として歌っている。
まるで──
『俺の音楽以外、音楽じゃない』
『自分が放つ音以外、聞きたくない』
とでも言うような、傲慢な、それでいて必死な叫び。
彼はきっと、歌わないと壊れてしまうんだろう。
そんな思考さえ浮かんでしまうほど、彼の声は切迫していて、剥き出しで。
私の歌が──
計算と訓練で作り上げられただけの『偽物』だと、突きつけられるみたいだった。
