「……Okay」
絞り出すようにそう答えて、私は彼女の元に設置されたマイクに歩み寄った。
さっきのダンスレッスンではてんでダメだったけれど──
それでも努力してきたなりに、少しは技術を認めてもらいたい。
マイクの前にたどり着くと、ヴァレンシアは私を落ち着かせるような優しい声音で言う。
「You're singing a cappella. Take a deep breath, pick your key, and start whenever you're ready.(アカペラで歌ってもらうわ。深呼吸して、キーを決めて。準備ができたら初めてちょうだい)」
深呼吸して、と言われるまでもなく、私は何度も自分を落ち着かせようと目を閉じて呼吸に集中していた。
逃げたら、終わりだ。
さっき、あれだけ無様を晒したんだから。
ここで巻き返さないと──
少しでも自信を取り戻さないと、本格的に明日に響く。
自分が一番得意なキーを、頭の中で探りながら──
そっと、目を閉じて。
私は、静かに歌い始めた。
選んだのは、日本語歌詞のバラード。
華やかではないけれど、今の私がおそらく一番得意とするタイプの曲調。
歌い始めの音は、まだ少し震えていた。
けれど、歌い始めていくにつれ、緊張は溶け、トーンは伸びやかになっていく。
──うん、大丈夫、いい感じ。
ピッチをきちんと合わせて、ブレスの位置も最善で。
不自然なビブラートは控えめに、声帯の位置を意識して。
幼い頃から叩き込まれた歌唱技術を、脳内をフル回転させて整理しつつ、私は私の『模範解答』を作り上げていく。
