と、そんな騒ぎを鎮めるみたいに、ヴァレンシアはスラリと長い脚を組み替え、パンッと手を打ち鳴らした。
「So. Let’s not waste any more time. Sing for me. I wanna hear what you’ve got.(さあ、時間は限られてるわ。あなたたちの歌、聴かせて)」
その言葉に、興奮に波立っていた部屋の中が一瞬にして静まった。
ぴしり、と緊張感で張り詰める空気。
その変化に『よろしい』とでも言うように妖艶に目を細めるヴァレンシア。
次いで、わざとらしく顎に手を添え、クラス全体を見渡し始める。
「Now… who’s going first?(さて……誰からいきましょうか?)」
まだ、少しだけ心の準備をする時間が欲しかった私は、反射的に視線を落とした。
けれど──
それが悪手だったらしい。
そんな私の動作を目ざとく見つけたヴァレンシアの視線が、鋭くこちらを射抜く。
「You. The one avoiding eye contact.(そこの子。目を逸らした子よ)」
……嘘。
終わった、本当にもう……。
「Me?(僕ですか?)」
聞き間違いかもしれないという微かな期待を持って、聞き返してみるけれど。
ヴァレンシアは悪戯めいた笑みを浮かべて頷くだけ。
「Yes,darling. Don’t be shy.(そうよ、ダーリン。恥ずかしがらないで)」
……別に、恥ずかしがってるわけじゃなくて。
今はコンディションが最悪だったから避けたかっただけだ。
身体中の筋肉は、さっきのハードすぎるダンスレッスンのせいで力が入らない。
ろくに水分補給もできないまま来てしまったので、喉もカラカラ。
今の状態で、私のベストパフォーマンスが発揮できるとは到底思えない。
よりによって、こんな状態で──
世界中の才能溢れるボーカリストたちの前で、歌わなきゃいけないなんて。
授業で絶対に分かるわけない難題を当てられ、みんなの前で答えを求められた時の、あのどうしようもない羞恥と焦燥。
それを数倍にしたかのような絶望感が、今、胸の奥をじわじわと締め付けていた。
でも。
それでも。
──怖気付いているわけにはいかない。
得意分野のここで、戦えなければ。
私が今ここにいる理由が、何一つ無くなってしまう。
──今できるベストパフォーマンスを出せるよう、死ぬ気で頑張るしかない。
