さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


ボーカルレッスン。


ダンスでは圧倒されてしまったけど──

歌は、まだ私でも戦えるかもしれない得意分野だ。


打ちのめされてる暇なんかない、喰らいつかなきゃいけない。


っていうか、ここでどうにか縋り付かないと──

本気で、私の精神が崩壊する。


明日のパフォーマンスのためにも、ここで自信を取り戻しておきたいところ。

私は疲れ切った体に無理やり気合を入れるように、軽く息を吐いた。


「This is it.(ここだ)」


ローガンがそう告げるとともに、防音仕様の分厚い扉を押し開ける。


──すると。


「Hi boys. You’re late.(やっと来たのね、ボーイズ)」


甘く艶のある、けれど芯の強い声が響く。


薔薇のような高級な香りを纏い現れたのは──

誰もが知る、アメリカの歌姫だった。


「Name’s Valencia. I teach vocals for the elite class at LUCA.(ヴァレンシアよ。LUCAのボーカル最上級クラスを担当しているわ)」


ヴァレンシア・ランドル。


艶やかな黒髪に真紅のリップが映える彼女の名前を、アメリカ音楽界で知らない人はいないと思う。

全米チャートを何度も席巻した歌手であり、ファッションデザイナーや社会活動家としても名を馳せている正真正銘のセレブリティーだ。

そんなとんでもない経歴の持ち主さえも、講師として迎え入れるLUCA──流石に恐ろしすぎる。