そんな限界状態のまま、遥風の肩を借りてスタジオの外へ出る。
熱気のこもっていたスタジオと打って変わって、廊下は冷たい静けさに満ちていた。
無機質な照明が等間隔に並ぶ、まっすぐな廊下をゆっくりと歩いていく。
と、そんな私たちを、数歩先を歩いていたローガンが振り返り、意地悪く揶揄うように笑いながら言った。
「Wow, talk about no stamina. What is he, some delicate little princess or something?(マジでそいつ体力無さすぎ。やっぱか弱いお姫様か何かなんじゃねぇの?)」
「Shat it.(黙れよ)」
遥風が、低い声で静かに牽制する。
けれど、ローガンは全く悪びれた様子もなく肩をすくめると、バカにしたような口調で続けた。
「No, seriously, I appreciate it. If there's a hole like that in your lineup, tomorrow’s performance battle is as good as ours.(いや、マジで感謝してるよ。お前らの中にあんな穴があるなら、明日のパフォーマンスバトルの勝利は確実にこっちのもんだ)」
疲労した脳ではその英語の意味は完全には理解できなかったけど、貶されているってことだけは痛いほど分かった。
──悔しい。
悔しくて、悔しくて、堪らない。
なのに、何一つ言い返せなかった。
だって、彼が言ってることは紛れもない事実だから。
何も言えず俯く私に代わって、遥風が語気を強める。
「Say one more word, and I swear I’ll bury you.(それ以上なんか言ったらマジで埋めるからな)」
「Whoa, easy there, killer.(ひぇー、怖い怖い)」
そろそろ遥風の殺人光線に慣れてきたのであろうローガンが、さらに煽るようにわざとらしく両手を上げて引いてみせる。
反省の色を微塵も見せないその態度を前に、空気は一気に張り詰め、喧嘩勃発寸前。
そろそろ遥風の手が出るんじゃないか──そんな危うさを感じ取ったのだろう。
翔が呆れ混じりのため息を吐いて、仲裁に入った。
「Alright, alright. You guys gonna throw down right in the middle of the hallway or what?(はいはい、もういいだろ。お前ら、廊下の真ん中でやり合うつもりなの?)」
咎めるような口調で、二人の間に入る翔。
そして、腕時計を確認するように視線を落とし、さっさと話題を切り替える。
「Yo, shouldn’t we be startin' soon? The vocal room’s somewhere ‘round here, right?(てか、そろそろレッスン始まるんじゃないの?ボーカルルームってこの辺だったっけ?)」
「Yeah, down that hall, take a right at the end.(ああ。この廊下を真っすぐ行って、突き当たりを右)」
「Damn, that far? C’mon, let’s hustle.(まあまあ遠いじゃん。急がなきゃ)」
翔に急かされ、一同は足早に廊下を進み始める。
私も、遥風の肩を借りながら、なんとかその後を追った。
