「Rogan, you joining?(ローガン、お前も入るか?)」
Mr. Dが振り返って尋ねると、ローガンはちょっと肩をすくめた。
「Wouldn't want to spoil the surprise. Tomorrow's treat.(サプライズを台無しにしたくないからね。明日のお楽しみ)」
……だろうね。
彼は、明日の敵に手の内を見せるような人ではなさそうだ。
きっと、明日初めて私たちの目の前で本気のパフォーマンスを披露し、その衝撃でこっちの心を折ってやろうっていう魂胆なんだろうな。
と、そんなふうに思考を巡らせていたところで、Mr.Dは今度はゆったりとこちらに向き直った。
「So, all of you from Japan head to the back row for now.(そうしたら、日本から来たお前らは、とりあえず全員後列に入ってくれ)」
その指示に、ホッとして密かにため息を吐く。
良かった……もし最前列へなんて無茶を言われたら、私の無様なスキルを晒すだけだったから。
とはいっても、鏡越しに見える自分の顔は、まだ緊張で強張っていて、我ながら分かりやすいなと呆れてしまう。
そうして、それぞれが位置についたところで、Mr.Dは再び鏡の前に戻り、パンッと手を打ち鳴らした。
「Alright, from the top! (さあ、頭からいくぞ!)」
早速、振り入れを開始するらしい。
彼の合図で、スタッフが音源のスイッチを入れた。
ビートの効いたハイテンポなヒップホップ調の曲が、大音量で響き渡り始める。
ワンエイトほど音を聞いた後、Mr.Dは鏡の前に一歩踏み出して──
瞬間。
音楽とシンクロした身体の動きが、雷鳴のように炸裂した。
細かすぎるリズムも、ありえないくらい正確に拾うコレオ。
最初のビートに合わせて身体を一気に沈め、次のキックで腰をヒット。
足元では、跳ねるようなハウス要素を取り入れた殺人級のステップ。
重力を無視する動きの数々。
待って、今の足どうなってる?と目を凝らせば、一気に上半身の動きから置いて行かれて。
……ダメだ。
こんな鬼畜コレオ──
この一回のレッスンで完成させられるわけがない。
途中から振り付けを頭に入れることも忘れ、ただただ茫然とそのスキルに圧倒されているうちに。
気づけば曲は終わってしまい、最後のポージングでビートが止まった。
