……と、そんな熱狂の中をかき分け、一人の男がゆったりとした足取りでこちらに近づいてくるのが見えた。
先ほどのパフォーマンス中、鏡の前で厳しい目をして腕を組んでいた男の人──
おそらくは、このダンスレッスンの講師。
汗に濡れて光る、深い黒色の肌。
ドレッドヘアを後ろで束ね、片耳には金色のフープピアス。
身長は180cm超えくらいで、圧倒的な筋肉の密度と、只者じゃないオーラを放っている。
彼は、そのままゆったりと私たちのそばに歩み寄ると──
「Logan. Been a minute.(やあ、久々だな)」
低く艶のある声と共に、ローガンの肩をガッと勢いよく抱き寄せた。
「Mr. D.(ディー先生)」
ローガンもそれに応え、慣れた手つきで軽くハグし返す。
……っていうか、今、Mr. Dって言った?
その名前は、ダンサーに疎い私ですらも耳にしたことがある。
ブロードウェイからLA、果てはロンドンまで、名だたるアーティストに請われてきた超一流のダンサー兼振付師。
ダンサー界のレジェンドみたいなものだ。
最近は指導者としても名を馳せていると噂には聞いていたけれど……まさか、LUCAの講師をしていたなんて。
Mr.Dは、渋い声でローガンと軽く言葉を交わしてから、今度は私たちに視線を向けた。
その視線の強さに気圧され、思わずピンと背筋が伸びる。
ヴィクターもローガンもだけど、外国の人って全然瞬きしないから重圧がものすごい。目力で殺されそう……。
ピリッと緊張を走らせる私たち一人一人をぐるりと見回すディー先生。
「So, these are the challengers from the East, huh?(こいつらが、東洋からのチャレンジャーってわけか)」
その視線は強いとはいえ、そこに侮蔑や偏見の色はなさそう。
むしろ、純粋な好奇心と、軽い期待を孕んでいるみたいだった。
「Alright, change of plans.(よし、予定変更だ)」
言いながら、Mr.Dは手を二回パンパンと叩く。
「Kill the track. New routine. Something fresh for our guests.(今のトラックはカット。新しいルーティンを入れるぞ。お客さんにふさわしいやつをな)」
その言葉に反応して、現場にいたアシスタントらしき人たちが音源の変更に向かった。
私たちのために、練習プランが切り替えられたらしい。
ここまでの待遇をしてもらえるってことは、きっと彼は、私たちにかなり期待しているんだ。
その期待が、逆に重いプレッシャーとなって、ずんと胸にのしかかる。
