完全に気圧される私の横で、翔が腕を組んだまま、ポツリとこぼした。
「……ベーシッククラスか」
…………え?
今なんて?
こんなとんでもないダンススキルを誇るこのクラスが……ベーシック?
一瞬自分の耳を疑ってしまう私をよそに、ローガンがふっとバカにするように翔を見た。
「Just the kind of basic routine that suits you.(お前にお似合いのベーシックルーティンさ)」
「Talk about disrespect.(ナメられたもんだな)」
その会話内容から察するに……本当にこのクラスは、初級者に向けたクラスらしい。
信じられない。
初級者でこれだったら、上級者たちのクラスは一体どういうことになってるの?
衝撃と焦燥でさあっと体温が下がり、思考がうまく追いつかない。
と、そんな私の横で、栄輔がちょっと驚いたような口調で翔に聞く。
「……へぇ。ここって初級なんだ?」
「うん、こういうシンクロ重視のルーティンは、で固める。アドバンスドでは、もっと『個』の表現にフォーカスするから」
そんな翔の説明に、私はちょっと納得してしまった。
こっちのアーティストは、とにかく個性が命。自分にしか出せない色を追求し、表現することこそが終着点になる。
だからこそ、日本で重視されがちな『シンクロ』は、通過点に過ぎないんだ。
揃える技術なんて、できて当たり前。
基本の型を完璧に叩き込んで、そこから自分なりの色を乗せていくための土台でしかない。
きっと、そういう価値基準のもとで作られたカリキュラムなんだと思う。
……そんな厳しい世界の中で。
『型』をなぞるだけ、『正解』を出すためだけに表現を続けてきた私には、一体何ができるのだろうか。
表現したいものも無い私は──
一体何者として、明日のステージに立てばいいんだろう。
……と、早くもそんな無力感に苛まれて。
ビートが止まりルーティンが終わっても、まだ夢と現実の境のような心地で、鏡の前のトレイニーたちをぼうっと見つめることしかできなかった。
