さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


ドン引きして死んだ目になる私、飲んでいた水で見事にむせ返る栄輔、「コイツ老害だろ」と吐き捨てる遥風。

翔は恥ずかしい身内を見せた時のようにきまり悪そうで、静琉とローガンは揃って面白そうにゲラゲラと笑っていた。


「And, I’d like you to call me ‘Master.’ No ulterior motives, of course.(そして、僕のことは『ご主人様』と呼んでくれ。もちろん下心は無い)」

「That's a high‑quality lie.(ハイクオリティな嘘だな)」


そう静琉に突っ込まれても、びっくりするくらい完璧な微笑を崩さないルシアン。

ご主人様、怖いです……お願いだから今後ヤバい犯罪とかには手を出さないで……。


「……この人、日本のアニメが好きなんだよ。昔、日本の女とイチャコラするためだけにわざわざ来日して、繁華街で夜遊びしてた時に寂れたバーで歌手をしてた黒羽仙李と出会って、衝動的に芸能事務所を作った」

「うわ」

「不純……」


翔からサラッと明かされたエマ設立に至る経緯に、結構ガチめにドン引きする栄輔と遥風。


「まあ、『Schadenfreude』が大ヒットしたから結果的に良かったけど……」


と、呆れ混じりに落とされた翔の言葉に、ルシアンがぴくりと片眉を上げた。


「Speaking of "Schadenfreude"… wasn't Mutsumi supposed to join us later?(『Schadenfreude』、といえば……睦も、この後ここに合流するんだったか?)」


その名前に、一瞬にして室内にピシリと緊張感が走る。


当然だ。今回、私たちがここに来ることになった要因は──

彼の、遥風に対する横暴を止めるためなんだから。


彼が同行してこないことを不思議に思っていたけれど、やっぱり、後から合流してくるんだ。

私たちへの腹いせに、何か変なことをしてこなければいいけど……。


少し雰囲気が重くなった私たちに気づかず、どこか遠い目をして昔話を始めるルシアン。


「When I first met him, he was a rather unremarkable singer. But when he started working with Senri, his performance just exploded. The kid really bloomed.(初めて会った時、彼はイマイチな歌手だったが……仙李と組み始めてから、表現力が一気に開花したんだ。あいつは本当に化けたな)」


その懐かしむような口調に、なぜだかギュッと心臓が痛くなった。

……まだ彼の中では、睦は仙李がいた頃の純粋な姿のままでいるんだろうな。

仙李を亡くしてからおかしくなってしまって、彼の幻影を追い求める亡霊になったとも知らずに。