さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

「俺、このオーディションで最年少だったから、超肩身狭くて。でも千歳くんは、年近いから話しやすいし優しいし、尊敬できるし。ほんっと良い先輩できたって思って、嬉しくて。個人的に、すげえ仲良くなりたくて……」

震えた声音。縋るように揺れる瞳。
息が、詰まる。

そんな顔、しないで。

私だって、できることなら仲良くしてあげたい。

本当に素直でいい子だし、私なんかでよければ、支えになってあげたいって思う。


けど……私にも、私の計画がある。


大きな才能を持っていて、デビュー有力候補の栄輔と仲良くするわけにはいかない。


自分の目的のために、こんなにも純粋な彼の腕を振り解いて、大きな傷を残す。
その罪悪感に飲み込まれてしまう前に、私は吐き捨てるように言い放った。

「そ。だから何?」

冷え切った声音。
栄輔の瞳が大きく揺らいだ。
まるで、打ち捨てられた子犬みたいに。

「千歳くん、」

「迷惑。話しかけてくんな」

強く睨みつけると、栄輔の肩が小さく震えた。

「……ごめん」

か細い声でそう絞り出し、彼は逃げるように去っていく。

ごめん、栄輔。

遠ざかっていく足音。
その音が消えた瞬間、私は耐えきれなくなって、ラウンジの机に突っ伏した。

──ああ、もう。
自分の感情には鈍感になろうって決めたのに。
やっぱり私、こういうの向いてない。

脳裏にこびりついて離れない、栄輔の痛々しい表情。
それを振り払うように髪をぐしゃぐしゃと乱し、はあっと大きく息を吐いた。

考えるのをやめよう。考えれば考えるほど、思考がネガティブに寄っていく。
私の悪い癖。
ここに1人でいたら、また余計なことばっかり考えちゃいそうだし……今日は切り上げよう。

そう思って、机の上に広げたノートや文房具を片付け始める。

と、そのとき。

「帰んの?」

ラウンジの入り口から、不意に声がした。

驚いて振り向くと、オーバーサイズパーカーのフードを目深に被った誰かが立っている。
壁に体をもたせかけ、気怠げにスマホをいじっている人影。

こ、今度は何?っていうか、誰?

ゆったりと壁から身を起こし、フードを脱ぐ彼。
艶やかな濡羽色の黒髪と、息を呑むほど華やかな王子様ビジュアルが顕になる。

え……もしかして、皆戸遥風?