私の知識では、エマの創設は二十数年前。
バブル崩壊後、無数の中小芸能事務所が淘汰されていった混乱期に唯一生き残り、やがて大手と肩を並べるまでに成長した異例の存在というイメージ。
だからこそ、エマの創立者であるルシアン・クロフォードがこんなにも若い人なわけがない。
きっと、もっと顔に深い皺のある渋い壮年男性のはず──
と、そんな私の予想を嘲笑うかのように。
「Ah, Shizuru… I’ve told you countless times to stop calling me by that nickname, especially to your elder.(ああ静琉……。歳上相手にそのあだ名で呼ぶのはやめてくれと何回も言っているだろう?)」
プラチナブロンドの美青年が少々不満げな声音でそんな爆弾発言を投下した。
……歳上?
このとんでもない現実離れしたイケメンが、この無頓着アラフォーおじさんの巫静琉より……歳上?
あまりに衝撃的な事実に、自分のリスニング能力を疑ってしまう。
と、まだ信じられないでいる私にとどめを刺すように──
巫静琉が、呆れのため息混じりに言った。
「Alright, alright… Mr. Crawford. Mind telling me why you’re so late?(ああ分かったよ……ミスター・クロフォード。で、なんでそんなに遅れたのか教えていただけるか?)」
……今、否定できないくらいはっきり、『Mr. Crawford』って言ったな。
──ってことは、やっぱり。
目の前にいる、このどう見ても二十代そこそこにしか見えない完璧美青年が──
『EMERGENCE PRODUCTION』創始者であり『LUCA』現CEO、ルシアン・クロフォード本人……?
