さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


その後、遥風の背中を追って辿り着いたのは、ロビーではなく──

LUCA本社の、応接室らしき場所だった。


どうやら、私が着替えている間に一同はすでに移動していて、遥風はそれを伝えるために迎えに来てくれたらしい。


「ここ」


短くそう言って、遥風が扉を開ける。

すると中にはすでに翔、栄輔、そして巫静琉が揃っていた。

私たちの到着を待っていたかのように、すぐさま立ち上がってこちらに駆け寄ってきたのは──栄輔。


「千歳くんっ……!!あの、さっきは本当にすみませんでした!!」


私の目の前にやってくるなりガバッと90度での謝罪をしてきて、その勢いに少々仰け反ってしまう。

ちょっと水をこぼしただけなんだから、そこまで深刻になることなんてないのに……。


そこまで責任を感じさせてしまったことを逆に申し訳なく思い、私は被っていたフードを外しながら「それよりそっちの体調は?」と聞いてみる。

栄輔の体調がどうなのかによって、彼への接し方が変わってくるから。


けれど、栄輔はそれを『自分そっちのけで心配してくれる優しさ』と受け取ったらしく──
ちょっと目を見開いたかと思うと、心底嬉しそうに口元を緩ませた。


「あ、もうガチで元気っすよ〜。千歳くんへのやらかしで焦って気持ち悪さ全部吹っ飛びました」


いや、だから別にそこまで焦らなくていいって……。

栄輔って、すごく優しいけど、そのぶん色々な面で自分を責めてしまいそうで心配だ。私にちょっと水をこぼしたくらいであんなに動揺してたら、もし相手がカンナさんだったりしたらどうなってたんだろう。切腹……?

なんてどうでもいいことを考えていると、栄輔がふと何かに気づいたように少し首を傾げた。


「……あれ?千歳くん、その服って……」


その視線の先を辿ってみると、彼が見ているのは──
遥風がさっき着せてくれたパーカー。


ああ……これ、気になるか。


だって、明らかにサイズ大きいもんね。歩いてる途中も何回か肩からずり落ちそうになってたし。

まあとりあえずわけは説明しておくか……と口を開きかけた、その時だった。