と、居た堪れない心地になっていた──その時。
バサッ!!
視界が一瞬、暗くなる。
──遥風が、自分のパーカーを私に被せてきたのだ、と気がついたのは数秒後だった。
さっきの彼の香水の匂いを打ち消すみたいに濃く香る、遥風の爽やかな匂い。
さっきまで彼が羽織っていたんだってはっきり分かる体温。
彼の意図を汲み取れずポカンとする私に、遥風は無言でグイッと袖を通させてくる。
遥風のサイズが私に合うわけがなくて、明らかにブカブカだ。
「遥風……?」
「寒そう。着な」
脈絡のない気遣いに、思考が追いつかない。いや、確かに寒いなぁとは思ってたけど。
遥風、怒ってるんじゃなかったの……?
「あ、ありがと……」
戸惑いながらもお礼を言う私に、遥風は感情の読めない表情のまま何も答えない。
代わりに、グイッと雑な仕草で大きめのフードを目深に被せてきた。
一瞬、奪われる視界。
突然のことに「ちょっ……」と少し抗議の声を上げて外そうとするけど、それを阻止するみたいに私の頭に手が置かれた。
「……フードまで被る必要ないんじゃ?」
「必要しか無いでーす。その顔晒してたらすーぐやべぇ男に絡まれんだろお前」
私の疑問に、ちょっと皮肉っぽく言い放つ遥風。
その言葉に、私はようやく彼の行動の意図を理解した。
顔のせいで色々面倒ごとに巻き込まれるんだから、隠しとけ、ってことね。
……ごもっとも、としか言いようがない。この変に目立つ顔のせいで、これまでどれほど多くのトラブルに直面してきたことか。
結局何も言い返さずこくりと頷いた私に、遥風は『よし』とでも言うように頭から手を離す。
「人多いとこ行く時はできるだけ顔隠して。あと、さっきみたいな気狂いイかれ野郎に絡まれそうになったら突っ立ってないですぐ俺に電話しろ」
その心配性に、束縛彼氏……?と、思わず突っ込みたくなったけれど。
でも、遥風がここまで言うってことは、本気で気をつけてほしいってことなんだろう。
ちゃんと反省して、これ以上迷惑かけないようにしないとな……。
自分の軽率な行動を、ほんの少し申し訳なく思いつつ。
心のどこかで、遥風が私を心配してくれていることを少し嬉しく思いながら──
私は、踵を返して歩いていく遥風の背中を追ったのだった。
