──圧倒的。
一目見ただけでそんな三文字が浮かんでくるほどに、彼のパフォーマンスは鮮烈だった。
まるで、熱波がぐわっと全身に叩きつけられるみたい。
マイク一本で、自分の個性を真っ向からぶち当てて──
強制的に心を掴んで、引き摺り込んでくる。
なんて、凄まじいスキル……。
ヒップホップカルチャー本場のラップは──輸入文化として楽しまれているだけの日本のそれとは、打撃の重さがまるで違う。
『英語』という、ライムを作るのに最適なリズムのある言語を駆使して、会場を震わせる、熱狂の渦に巻き込んでゆく。
いくら冷静に分析しようと思ってみても、彼の隙のない技巧、そして否応なく視線を掻っ攫うカリスマを前に、気づけば体温が上がって、呼吸が浅くなって。
脳が焼けて、快楽と混ざり合うような──そんな異常な昂りが、全身を支配していく。
音が、全部、気持ち良すぎる。
今一番欲しいところに完璧なタイミングで、ニュアンスで、見透かされてるみたいに紡がれるリズム。
これ、長い時間聴いていたらとち狂いそうな──
ドラッグか何かみたいだ。
これが、『本場』のヒップホップなのか……。
完全に気圧され、動くこともできずにただ棒立ちで見入ってしまっていた──
そのときだった。
──不意に、ステージ上の彼と、バチッと目が合った。
……え。
彼の吸い込まれそうなスティールブルーの瞳が、数秒ほど、私を捉える。
あ、もしかして、部外者は入っちゃいけなかったのかな……?
そう気付いた瞬間、全身の血がさぁっと落ちるような感覚がした。
やばい、怒られる前に引き返さないと。
勝手な行動をして出禁になるのだけは勘弁だ。
と、そう思って、すぐに踵を返そうとしたのに。
ステージ上の彼は──
何故かふっと口元を緩めると、マイクを持った手で真っ直ぐに私の方を指差した。
そして。
「Hey, back there—white shirt, black hair. I’m lookin’ at you.(後ろの、白シャツの黒髪の子!目ぇつけたからな)」
なんて言いながら、あろうことか──
ステージから飛び降り、こちらに向かってツカツカ歩み寄ってきたのだ。
……え。
ちょ、ちょっと待って何ですか??
絶叫を轟かせるギャラリーたちの合間を器用に縫って、みるみるうちにこちらに近づいてくるその少年。
ステージ上に残された彼以外のクルーたちは、『まーた始まったよ』とでも言うようにニヤつき、顔を見合わせている。
主役を失った大音量のビートだけが響き渡る中、ステージ上にいた彼は硬直している私の元に歩み寄ると──
ドンッ。
逃げ場を塞ぐように、私を壁際に閉じ込めた。
