「ほんっとすんません……てか、気にしないんで全然ここで着替えちゃって大丈夫ですから」
と、その発言に、ピシリ、と空気が固まる。
トイレが遠いから、歩かせるのが申し訳ないという彼なりの気遣い……ではあるんだろうけど。
それだけは、何があっても絶対にダメだ。
ちょっと表情を引きつらせる私の横で、先に口を開いたのは遥風だった。
「ぜってーだめ」
ピシャリ、と告げた遥風を前に、栄輔の表情がちょっと不機嫌そうになった。
『なんでお前が決めるんだよ』とでも言いたげな、ムッとした彼の視線に、遥風は小馬鹿にするように目を細めて見下ろす。
「え、なに。お前そんなに千歳の上裸が見たくて堪らねぇの」
「…………な゛っっ……?!?!」
さらりと投下された破壊力の高い一言に、一瞬にして真っ赤になってあたふたし始める栄輔。
もう焦りでさっきまでの体調不良なんて吹っ飛んだみたいで、両手をぶんぶんと勢いよく振ってしどろもどろになりながら否定し始めた。
「いやただ異国の地で千歳くんを一人で歩かせるのが心配で……ってか、そんなこと言ったら俺が変態みたいになるだろうがっ」
「はっ、間違ってねぇだろ」
「はぁっ……?!おま、お前だろそれはっ!!」
嫌味ったらしく鼻で笑う遥風に、ムキになって言い返す栄輔。
彼らの言い合いがヒートアップしてきたところで、私は気配を消し、そーっとその場から離脱させてもらうことにした。
私のことで小競り合いしている最中に悪いけれど、かといって濡れた服を着たままぼーっと立っているわけにもいかないし。
犬猿の仲の二人を置いていくのは気がかりだけど……どうか、間違って殴り合いに発展したりなんかしませんように……。
そう胸の中で静かに願いつつ、私はキャリーケースの取手を引いてロビーを後にしたのだった。
