「富士山見えるかな」
「夜だから見えないだろ。てか、俺あれ見たい。ラスベガスのカジノホテル群」
「それこそ見えないでしょ。もっと東側行かないと」
「そう?地理弱いから分かんねぇわ」
そんなくだらない会話をしながら、顔を見合わせて笑う。
遥風、なんかいつもよりはしゃいでるような……ちょっと可愛い。
そんなことを思いながら、ひとり心の中を暖かくしていると。
ふと、頭上から、ちょっと躊躇ったような遥風の声。
「……てか、千歳ってさ」
「ん?」
ちょっと首を傾げて遥風を見上げた、そのとき。
彼の言葉を遮るみたいに、ポーン、と軽い電子音が響いた。
続いて、スピーカーから響く落ち着いた機長アナウンス。
『Ladies and gentlemen, welcome abroad. This is flight JL062 bound for Los Angeles International Airport. Please make sure your seat belt is securely fastened…(皆さま、ご搭乗ありがとうございます。こちらは、ロサンゼルス国際空港行き JL062便でございます。離陸に備え、シートベルトをしっかりとお締めいただきますよう……)』
ネイティブスピードで流れていく英語のアナウンスに、「なるほど」と神妙な顔をして頷く栄輔が、翔に「分かってないでしょ」と突っ込まれていた。
私は指示通りにシートベルトを締め直しながら、「何か言いかけてた?」と遥風に聞いてみるけど。
遥風は「あー」とちょっと曖昧な声を漏らした後、気まずげに視線を逸らした。
「……なんでもない」
……それ、多分、なんでもなくないやつだよね。
けど、無理に聞くこともないか、と思って、それ以上深掘りはしないでおいた。
離陸に向けて加速をし始めた機内の中、私はバッグから再びイヤホンを取り出す。
「とりあえず、先寝るね」
そう断って、ブランケットを軽く上に引いた瞬間。
──ぐい、と。
肩に回っていた遥風の手が、優しく私の頭を引き寄せた。
戸惑いながらも、促されるままに、遥風の肩に頭を乗せる。
「遥風……?」
「肩貸す。通路側、寄っかかれないの辛いでしょ」
少しぶっきらぼうなその口調に、ぐっ、と心臓が締め付けられるような感覚。
……やっぱ、優しいんですね、遥風くんって。
なんて、揶揄ってみようかと思ったけど。
そんな無粋なことはせず、黙って甘えておくことにした。
機内のほの暗い照明の中、私はイヤホンを装着し直して。
彼の肩の温もりに甘えるみたいに体重を預け──静かに、目を閉じたのだった。
