さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


首を傾げた時にさらりと流れる黒髪の下、長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳が、何か言いたげにじっとこちらを覗き込む。

その顔の良さに若干気圧されつつ、イヤホンを耳から外し、「どうしたの?」と聞き返すと。


「外、めっちゃ綺麗」


視線で示された窓の外を見ると、空港の滑走路の向こう、夜景がきらめいていた。

街の光が宝石みたいに瞬いていて、まるで夢の世界みたい。

離陸前の徐行、ゆっくりと流れていく景色と、機内特有の駆動音がなんだか心地良い。


「……これ、飛んだらもっと綺麗だろうね」


言いながら窓の外を覗き込もうとすると、自然と距離が近くなった。

ふわ、と鼻腔をくすぐった遥風の匂いで、ハッとそれに気づく。


「あ、ごめ……」


慌てて身を引こうとした、その時。

不意に私の肩に遥風の手が回って、ぐい、と引き寄せられた。

戸惑う私に、遥風はふっと目を合わせて微笑みかける。


「いいから。そのままで」


その言葉ひとつで、何故だか、ぎゅっ、と心臓が締め付けられた。

あー……私、本当に、遥風と今までの関係に戻れたんだ。

そんな実感が湧いてきて、些細なことなのに、溢れそうなほどの幸せを噛み締めてしまう。