その日からの練習は、息をつく暇もないほどだった。

四次審査に向けたステージの反復練習、合宿のための個人パフォーマンスの練習に加え、私はさらに体幹を鍛える筋トレ、体力をつける有酸素運動なんかをこなして、他メンバーとの差を埋める必要があった。

最低限の睡眠・食事時間を確保して、あとはほとんどレッスン室に篭りっぱなしの日々。

最初こそ、跳ね上がった強度に身体中が筋肉痛で着いていけなかったものの──

二週間経った今、ようやくその怒涛の猛練習にも慣れてきて。
他のメンバーと踊っても技術的に浮かないくらいには、仕上がってきたんじゃないかと思う。


この努力が、合宿でも少しは活かせればいいんだけど──


期待と不安の入り混じったそんな心境の中迎えた、LUCAトレイニー合宿参加当日。

私たちは、練習後の夕方頃に静琉と共に事務所を出発し、そのまま国際空港へ向かった。

空港特有の張り詰めたような空気の中、チェックインを済ませ、搭乗ゲートを抜ける。


目的地、アメリカ・ロサンゼルス。
フライト時間、およそ十時間。


「十時間ってことは……時差も考えたら何時に着くってこと?」

「午後二時くらいかな。ジェットラグ対策で、今から時計をLA時間に合わせておいた方がいい。向こうで起きてるであろう時間には起きて、夜には絶対寝る。それだけでコンディション全然違うから」


機内に到着して早々、悩み始めた栄輔に、翔が変装用の黒マスクを引き上げながら答える。

流石は翔、日本とアメリカを何度も行き来してきただけあって、時差ボケ対策は心得ているらしい。

時差ボケをジェットラグって言うあたりもなんか海外慣れしてるよな、と変なところで感心してしまう。


「じゃ、めっちゃ早起きしないといけないってこと?」

「そうそう」

「え、無理かも……俺、一回寝たら爆睡だもん」

「じゃ、本番寝不足で挑むしかないね」

「う……」


揶揄うような翔の言葉に、小さくうめく栄輔。

そんな彼らの会話を通路越しに盗み聞きしていた私は、その知識をすぐに行動に移す。

ワイヤレスイヤホンを装着して、パーカーのフードを被り、寝る体勢に入ることにした。

乗る前に軽くコンビニでサンドイッチを買って食べておいたし、一回目の機内食はパスしよう。
きちんと寝て早めに起きて、朝食だけ貰えばいいや。

そう思って、ブランケットを肩まで引き上げた、そのときだった。

とん、と軽く肩を叩かれて、薄く目を開ける。


──遥風だった。