「……とはいえ、お前たちも充分レベルが高いから、渡り合えるだけの素地はあると思うが──唯一、懸念があるとしたら」
と、そこで言葉を切って。
静琉の視線が──
不意に、私に向いた。
ドクン、と、心臓が嫌な音を立てる。
その視線に射すくめられたように動けなくなる私に、冷たく落ちる、静琉の言葉。
「榛名千歳、お前は──今のままじゃ、厳しいだろうな」
ズン、と。
胸の中心に、凍てつく鉄の杭を打ち込まれたみたいな感覚。
──ああ。
やっぱり。
思わず下唇を噛む私に、淡々と続ける静琉。
「実力至上主義の舞台での勝負で、君が戦力になるかどうかはこれからの伸びにかかってくる。足手纏いに感じる瞬間もあるだろうし、自分の無力さに苛まれる瞬間もあるかもしれない。だが、俺の勘が正しければ──
お前は、窮地に追い込まれた時こそ、本領を発揮するタイプだ」
その言葉に、息が止まった。
思わず顔を上げると、静琉と真正面から視線が交錯する。
その瞳の奥に浮かんでいたのは、あのいつもの厳しさと──少し違う何か。
まるで過去の誰かを重ねているような、遠い、淡い憂い。
その表情の意味を理解する前に、静琉の口元が、ふ、と緩んで。
「この経験が、お前の表現を拓く鍵となることを──願っている」
──あ。
期待、されてる。
けれど、これは私がずっと苦しめられてきた『期待』とは違って。
押し付けでも、義務でもない。
『できることを知っている』という、ただそれだけの、静かな信頼。
私は大きく深呼吸をして、心の動揺をそっと落ち着けた。
そして、まっすぐに──頷く。
「はい」
遥風の未来のために。
自分のために。
もう、迷っている時間なんてない。
私は真正面から静琉の視線を受け止めて、しっかりと覚悟を決めたのだった。
