さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

店内はシックなインテリアに包まれ、ほの暗い照明が落ち着いた雰囲気を作り出している。
静かなジャズが流れ、まるでセレブ専用のプライベートサロンみたいだった。

多分、こんな中学生の小娘が来ていいところじゃないよね。
ていうか、私たち以外にお客さんの姿が無いんだけど、貸切……?

息を詰まらせていると、カツカツと響くヒールの音が聞こえてきた。

現れたのは、艶やかな黒髪を腰まで伸ばした、涼しげな顔立ちの美人さん。
クールな雰囲気の彼女は、優羽の顔を見るなり、パッと表情を輝かせた。

「優羽ちゃーん♡待ってたわよ♡」

「今日はよろしく、涼介くん」

……涼介くん?

一瞬、聞き間違いかと思ったが、よく見ると白く細い首にわずかに目立つ喉仏。

信じられない──ここまで完璧に、性別を偽れる人がいるなんて。
背中に冷や汗が滲んだ。

「ところで、この子が例の?」

涼介くん、と呼ばれたその人が、顔を覗き込んできた。ぱっちりとした瞳が、好奇心に輝いている。

「あ……榛名千歳です」

「やぁんだー!美少女すぎない?腕が鳴るわぁ〜」

興奮した様子でてを叩く涼介さん。そのパワフルなテンションに、少したじろぐ。

「何かイメージはある?優羽くん」

「中性的な雰囲気で、男女ともに惹きつける繊細な印象で。あとは任せるよ」

「了解!じゃあ行きましょ、千歳ちゃん♡」

涼介さんに指示を出すと、優羽はさっさと去っていった。

二人はどういう関係なんだろう?

疑問を持ったけど聞く暇もなく、私はサロンの奥へと連れて行かれた。