「……早くないか、お前ら」
心底眩しそうに目を細めて、ぼそりと一言。
そんな覇気のない相手にも関わらず、翔、栄輔、遥風は礼儀正しく立ち上がって、ガバッと頭を下げた。
「「「お疲れ様です!」」」
やはり、エマ傘下のダンススタジオ出身だからだろうか。
ほとんど条件反射のような完璧なユニゾンに、私も慌てて立ち上がって、一緒に頭を下げる。
そんな私たちを前に、静琉はくわぁと面倒そうにあくびをすると、頭を軽くかいた。
「あー……そういうのは要らん。第三者の目があるときだけでいい」
て、適当……。
そういえば、巫静琉って、エマのCEOに就任する前は芸能ジャーナリストとして海外を飛び回ってたんだっけ。
そのせいで、上下関係も年功序列も全スルーの実力重視な人物だって聞いたことはあったけど……まさか、ここまでだとは。
ちょっと呆れる私の横で、かしこまった態度を崩さない翔。
「……この度はトレイニー合宿への参加という貴重な機会を頂き、本当にありがとうございます」
「えー?あー……」
翔の言葉に、静琉は眠そうにゴシゴシと目を擦ったあと──
「礼がしたいなら、タバコ買ってきて。ちょうど切れてんだわ」
「……」
なんか、鷹城葵をヤニカスにした犯人、察せた気がする……。
思わず眉根を寄せる私に、遥風が「裏ではいつもこれ」と耳打ちしてくれる。
天才には変人が多いって言うけど、例に漏れず、この人もなんだかやばそうだ。
