さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「っ、ごめん……」


情けない姿を見られたくなくて、慌てて遥風から背を向ける。

こんなことで泣いてちゃ、遥風も反応に困るはずだ。早く平常心に戻らなきゃ……。


そう思って、指で瞳に滲んだ涙を拭おうとした──

そのとき。


──ギュッ。


不意に、背後から身体を引き寄せられた。

懐かしい、爽やかな香水の香りに、間近で濃く包まれる。


……え?


「……ごめん。一瞬だけ」


遥風の表情は、見えないけれど。

耳元に落ちた囁きは、熱っぽくて、少し掠れていて、どこか苦しそう。


首筋に埋まった遥風の顔から、熱を孕んだ呼吸を感じて、びく、と身体が強張る。

一瞬だけとか言っておいて、その腕には、明らかに離すつもりのない力があって。


そばに私がいることを確かめるみたいに、さら……と優しく頭を撫でられる。


「……っ、遥風、人来る……」

「あと十秒」


やっぱり全然一瞬じゃないじゃん。

嘘つき……。


そう心の中で咎めながらも、私はあまり強く抵抗できないままでいた。

私たちの関係は、あくまで『友達』なのに。

今まで通り、冷静に接しなきゃって思ってるのに。


遥風の匂いと体温を間近にすると、心臓がぎゅうっと締め付けられるような感覚が止まらなくて。


また、ぐちゃぐちゃになっていく。



──離れないと、危険だ。