「不満は無いだろう?至って公平な、合理的判断のもとだ」

「ああ、確かに理にかなっているが……この忙しい審査期間中に一体誰を連れていくつもりだ。勿論遥風は出さないぞ」


それは、私も思っていた。

『トレイニー合宿』なんて急に言われても、私たちだって絶賛オーディション合宿中。

おそらくアメリカで開催されているであろうそのイベントに参加する暇なんか、きっと誰にも無い。


私も遥風も睦も、息を潜めて静琉の次の言葉を待った。

静琉はちょっと考えるような素振りを見せた後──

わざとらしく「あ」と、小さく声をあげて手を打った。


「そういえば、脅威的なスピードで舞台を仕上げ、極めて高い完成度を見せたチームがいたな」


そんな言葉と共に──私に向けられる視線。


……え?

まさか。


その意味をようやく察知し、焦り始める私をじっと見据えたまま、巫静琉はさらりと言い放つ。


「遥風を除く『桜嵐』メンバー、天鷲翔、冨上栄輔、榛名千歳に参加させよう」


当然のように呼ばれた私の名前に、私は思わず頭を抱えた。

あなたの言う『完成度』は、あくまで私以外のメンバーに関してであって。

私はまだまだ、練習の時間が必要なのに……。


──でも、少し考え方を変えてみれば。

アメリカ。

エマの創始者が作り上げた最高の環境、世界のエンターテイメント。


そこで私の表現を開花させるための何かが掴めるかもしれない。


……何より、遥風の移籍を阻止できるかもしれない──

もう二度と無いチャンスだし。


「参加、といっても二泊三日のみだが……それでも負担になるか?榛名千歳」


黙り込む私にかけられた静琉の言葉が、さらに私の背中を押した。

たった、二泊三日。

その短期間で、果たして私に何ができるのかは分からない。

けれど、少しでもそれで償えるなら……私の実力の無さに言い訳をして、迷ってる暇なんてない。