さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


夕方に見かけたままの、ノーセットのヘアスタイルに普段着の完全なオフモード。

しかし、その前髪の中から覗く眼光は、ステージ上に立っている時の、有無を言わせぬ鋭い光を宿していた。

カツカツと靴音を響かせ、こちらに歩み寄ってくる静琉に気圧されたように、ごくり、と喉を鳴らす睦。


「今まで、会社のためにお前の勝手な行動は黙認してきた。しかし──

そろそろ看過できないレベルまで来たようだな」


氷のように冷たい瞳が、睦を刺すように真っ直ぐに見つめる。


「……急になんの話だ?」


CEO相手にも敬語を使わず、尊大な態度を保つ睦。

そんな無礼、普通は罷り通らないんじゃないかと思うけれど──

エマの場合は、ちょっと違う。


何故なら、一昔前、『Schadenfreude』全盛期を築いた時代のCEOは静琉ではないからだ。


『Schadenfreude』解散後、静琉が二代目CEOとして就任したとき、完全に睦は彼を余所者扱いしていた。

静琉は、今でこそ『SiESTA』を始めとした人気グループを手掛けるヒットメーカーではあるものの、その当時は駆け出しの若手芸能ジャーナリスト、日本のエンタメ業界ではほとんど無名に近かったせいだ。


睦の横暴がここまで罷り通ってしまうのも──この奇妙な力関係のせい、だったんだろうけど。

流石の静琉も、我慢の限界が来たらしい。


「例えば──二次審査の時の話。わざわざ本番前のあのタイミングで、菅原琥珀のスキャンダルを週刊誌に売る必要はあったのか?」


その言葉を聞いた途端、隣で遥風がわずかに息を呑んだのが分かった。

あの時、私たちのパフォーマンスを壊滅に追い込みかけた、菅原琥珀の辞退騒動。


あれが、式町睦によって意図的に引き起こされた出来事だって──そういうこと?


……思えば、菅原琥珀辞退のあと、流石に何かしらのフォローがあってもよかったはずなのに、皆無だったのも気になっていた。

鬼畜で有名なエマプロだからと無理やり自分を納得させていたけれど、それも、少なからず睦の圧力が加わっていたとしたら──?

でも、一体何のために?


いまいちよく理解しきれない私に反して、遥風は全てを悟ったようで、悔しそうに唇を噛んで俯いていた。