さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



それまでの薄笑いがふっと消え、深い沼の底のような闇が、瞳に宿って。


「……知ったような口を聞くな」


と、次の瞬間。


──ドンッ!!


衝撃音と共に──

全身に、鈍く大きな痛みが駆け巡った。


「っ……?!」


視界がくら、と一瞬歪むほどの強い痛み。



一瞬、何が起こったのか分からず──

数秒後にようやく、自分が突き飛ばされたのだと理解した。


体の底からずくんずくんと定期的に襲う鈍い苦痛に、顔を歪める。



「仙李は……俺の中で生きてる。俺はその証を、この世に作り上げたいだけだ。

仙李のことをろくに知らないお前が、幻想などと──軽々しく口にするな!」



頭上から落ちるのは、怒気が爆ぜるような睦の怒鳴り声。

その威圧感に、思わずビクッと肩が震えたけれど──


同時に、怒りも込み上げた。

やっぱり、この人、何も分かってない。


感情の昂りと痛みとで滲む視界で、キッと睦を睨みあげる。



「──私はその野心の理由はなんであろうが、どんな信念があなたの中にあろうが、遥風への扱いは完全に間違っているっていう話をしているんです。あなたの事情なんかこの際知ったこっちゃない!」



その言葉に、一瞬、睦の顔が引き攣る。


──そして。


「生意気なっ……!」


次の瞬間、振りかぶられる腕。



あ──

殴られる。



それも、『作品』でもなんでもない私だから、多分、顔を狙ってる。


やばいな、と頭の中では分かっていても、全身は硬直して動かなくて。


衝撃を覚悟して、ギュッときつく目を瞑った──


そのときだった。



──パシンッ!



乾いた音が、廊下の冷えた空気に響いた。


衝撃は──

無い。


恐る恐る目を開けると、そこには。



「……やめろよ」



睦の手首をしっかりと掴んだ遥風が──

私を庇うようにして立っていた。