そう確信した瞬間、今まで引っかかっていた出来事が、一気に繋がった。

例えば、遥風がどうして元から私が女だって知っていたのか。



それは、彼の父親の睦が私の生い立ちを知っていたせい。



そして、一次審査の時に彼から感じた意味深な視線の理由。

その冷たく射抜くような視線の理由を、私は気のせいだと必死に誤魔化していた。


けれど今、彼の『野心』を知ってしまった私は、その意図にようやく気づくことができた。



彼は、きっと警戒していたんだ──

私が、仙李の血を引く実の娘が、彼の『作品』を脅かすのではないか、と。



「……遥風に、黒羽仙李を継がせようと?」


震える声で聞くと、一瞬、沈黙が落ちる。


なんで、黙るの……?


恐る恐る顔を上げると、式町睦は、不本意そうに目を細めていた。


「継がせるも何も、あいつは最初から、第二の仙李として作られただけの器だ」


ぞく、と悪寒が走った。


彼の目には、生まれた時から遥風は『仙李のレプリカ』なのだ。

きっと、自分の息子として見たことなんて一度もない。遥風の自我を認めるなんて発想は微塵もない。


ただ、自分の神を再現するという目的のためだけに産んだ、自分のための『道具』。


呆気に取られる私に、淡々と睦は続ける。



「……榛名千歳。仙李の血を引くお前が出演すると聞いた時は、俺の作品を越えてしまうんじゃないかと心配していた。けれど……パフォーマンスを見て安心したよ。至極凡庸で、取るに足らない」


ふっ、と睦が表情を和らげる。


笑顔。


……心底、安心したとでもいうような。


その瞬間、私は強烈な既視感を感じた。



──あの時だ。



一次のパフォーマンス後、彼の私に対する視線が分かりやすく柔らかくなった理由。


あれは、私のパフォーマンスが気に入ったからじゃない。


安心されたのだ。

私が彼の作品に届く器じゃないと、判定されたから。




「……絶対に、おかしいです」




ぽつり、と思わず本音がこぼれた。


本当に、芸能界にはどうしてこうも狂った大人が多いのか。

芸能人はまともな精神でやっていける職業じゃない、とは言うけれど──


だからと言って、それが『壊す側』に回っていい理由にはならないのに。


心の奥に溜まっていた膿を、一度吐き出してしまえば、もう止まらなかった。