「なぁ、俺、千歳くんに話しかけてこよっかな?」

「バカッ、やめろよ。あいつあんな可愛い顔してるけど、喧嘩大好きなサイコパスなんだって」

「それマジなん?でも今なら逆に萌えるかも……」

一次審査終了後。

スタジオ内で待機させられている参加者たちの間で、そんな囁きがちらほら聞こえてきた。
昨日までの、問題児を遠巻きに見るような視線に混じって、キラキラと興味深そうな視線がビシバシと突き刺さる。

けれど、やっぱりみんな遠慮しているのか、誰も話しかけてこない。
カメラの前では絡んでくれた方がいいんだけどな……ぼっちだと、性格悪いのかなって視聴者に気づかれちゃうかもしれないし。

そんなふうに思いながら、スマホを鏡がわりに前髪を整えていた、その時。

「あの」

背後から、聞き覚えのある声。
振り向くと、そこには小山明頼が立っていた。
頬を紅潮させ、瞳をキラキラと輝かせて、まっすぐに私を見つめている。

「写真1枚っ……いっすか?」

げ……。

今までの人生で、何度か異性に好意を向けられたことはある。けれど、彼の感情は明らかにそれとは違う。
好き、っていうより……崇拝の念、みたいな。生まれてこの方向けられたことのない、激重クソデカ感情。

この状態からもう1度嫌われるとか、無理ゲーじゃ?
まあ、今日の彼のパフォーマンスを見るに、そこまでスキルは高くなくて、デビュー可能性は低そう。だったら別にセーフか……?

内心ぐるぐると悩みながらも、完璧に押し隠して、カメラ用の営業スマイルを作る。

「もちろんです」

「!!!ありがとうございますっ……」

立ち上がって、明頼に肩を寄せ画角に入る。

パシャッ。

「どんな感じ?」

映りを確認しようと彼のスマホを覗き込むと、なぜか物凄く素早い動きで飛び退かれた。

え何、事故画だったとか……?

訝しげな表情を浮かべる私に、明頼は手で真っ赤な顔を隠して慌てたように言い訳をする。

「ご、ごめっ、ちょ近すぎてビビっちゃって……いい匂いすぎるし、うっ、無理っ……」

「おい、大丈夫?」

身体を折り曲げて吐きそうになる明頼。
反射的に駆け寄ろうとして、思いとどまる。
今私が近づいたら逆効果だよね、多分。

私が1人慌てていると、明頼の首根っこが誰かにグイと掴まれた。