この酩酊状態で誰かと話すのは、おそらく自殺行為。
だとしたら、できるだけ人気のない方へ行った方がいい。
そんな思考のもと、私は人の多くいそうなスタジオ棟は避け、その東側に設置された旧スタジオ棟に向かうことにした。
ここは、エマプロ1期のみで使用されていた小さな建物。
設備は今のスタジオ棟より数段階劣り、老朽化も進んでいるのでもうそろそろ取り壊されるらしい。
立ち入りは禁止されていないのだけど、用がないし空調も効いていなくて寒いから参加者たちはあまり寄りつかない。
だから、きっと酔ってる姿を見られないためにはうってつけの場所だ。
そう思って足を踏み入れてみたのだけれど──
ちょっと、いや、かなり居心地が悪そう。
蛍光灯の光は半分切れていて、時折ジジ……とじりつくような音を立てる。
一歩進むごとに、自分の靴音が響くような、無機質な静けさ。
なんだか、ホラー映画に出てきそうな建物だなぁ……。
やっぱりどこか別のところにしようか。
そう思って、踵を返しかけた──そのときだった。
「……ん?」
視線の先、廊下の突き当たりにあるスタジオの一つ。
そのドアの隙間から、ぼんやりと明かりが漏れているのが見えた。
……こんな時間に、こんな場所で、一体誰が?
と、ちょっと首を傾げたところで──ふと、思い出す。
『遥風は、よく深夜にエマのスタジオで父親にマンツーマンで稽古つけてもらってます』
あの時、栄輔に教えてもらった、皆戸遥風の父親と個人的に接触できるタイミング。
あれから私は毎晩スタジオ棟のすべてのスタジオを確認していたけれど、そのその稽古らしき現場は発見できず。
まさかこんなボロ施設を使うはずがないだろう、と旧スタジオ棟は無視していたんだけど……まさか。
考えるより先に、足が前に進んでいた。
靴音をできるだけ殺して、冷たい廊下を進む。
その部屋に近づくにつれ、扉の向こうの音楽、足音、人の気配が濃く感じられて、自然と心臓が高鳴り始めた。
ドアのそばまで歩み寄ると、息をひそめ、そっと隙間から覗き込む。
──すると、そこに視界に飛び込んできたのは。
汗に濡れた額を押さえる遥風と、それを見下ろす長身の男──
審査員の、式町睦だった。
