「……なっ、なな何やってんすかっ!?!いじめ?!」


私を庇うようにして立ち、これ以上ないくらい取り乱しながら篤彦を見上げる栄輔。

と、そんな彼を前に、篤彦はポケットに手を突っ込んだまま、びっくりするくらい涼しい表情で──


「んー…………いちゃついてた」


大嘘を吐いた。


「はぁっ……?!」


爆弾発言に目を見開く栄輔。

私が慌てて否定しようと口を開きかけるけど、それよりよっぽど早く、栄輔は私の方に向き直って必死に訴えかける。


「千歳くん、あんなっ……あんなモラハラ男絶対やめた方がいいですって!!!」

「モラハラ言うな」

「てかなんか顔赤くないっすか千歳くん、熱?!」


篤彦の抗議は当然のようにガン無視して、栄輔は慌てたように私の頬に手を当てる。

そしてその瞬間、ハッと息を呑んで目を見開いた。


「っ?!なんでこんな熱い……」

「……飲まされた」


私がオレンジジュースのカップを指差して、不満をぶつけるみたいに篤彦の悪行をチクると。

栄輔は、ぴく、と苛立たしげに引き攣らせる。


「……何を?」

「酒。ジュースだって騙されて」

「…………は??」


栄輔らしからぬ、低く押し殺した声。

くるり、と篤彦に向き直るや否や、ズカズカと大股で距離を詰めると、ぐいっ、と勢いよく胸ぐらを掴み上げた。


「何をどこまでやったんすかっっ!!」

「秘密〜」


大したことはしてないくせに、わざともったいぶってニヤニヤする篤彦。

ほんと、どこまでもいい性格してる……。


「てか栄輔も飲んでみ?酒の味しやんから」

「今度はアルハラですか?!飲みませんよ!!」

「いけるいける。チャラいしお前」

「俺は別にチャラくないっっ!!!」


と、何やら二人が揉め始めたところで。

申し訳ないんだけど私は気配を限界まで薄め、そーっと部屋を去らせてもらう。


ガチャン、と背後で扉を閉めると、廊下の静けさが戻ってきて、私は思わず深くため息を吐いた。


栄輔が来てくれたおかげで、脱出できて助かった。

あのままだと、苛立った椎木篤彦に物理的に負けて全てが終わりそうだったから。



……とはいえ、篤彦の言うとおり、今の状態で自室に帰るのは避けたい。

どこかで時間潰してくしかないか……。



そう考えた私は、酔いでまだ覚束ない足をなんとか動かしながら、行くあてもなく一人歩きだしたのだった。