危ない、危ない。


こういうこともあろうかと、まだ酔っていないうちに手を打っておいて、本当によかった。


私はポケットからスッと自分のスマホを取り出すと、その画面を篤彦に突きつける。


そこに映っていたのは──

音声録音中の画面。


何か変なことをされるんじゃないかと警戒して、一応今までの全ての会話を録音しておいたのだ。


流石にこれには、篤彦もめちゃくちゃ嫌そうに表情を引き攣らせた。


「これをいい感じにカットして、篤彦が私を騙して飲酒させたところだけを週刊誌に売ればおそらく炎上しますね。邪道なことをしてくれて助かりました」

「……貧乏人相手にエグいことするなぁ、あんた」

「関係ないでしょ」


私の脅しを前に、篤彦はまだ何か言葉を探していたようだったけれど──

結局見つからなかったみたいで、はぁ……と苛立たしげにため息を吐いた。


「……分かった。とりあえず千歳ちゃんの男装云々については黙っとくわ」


……どうやら、ようやく私のことを詰めるのは諦めてくれたらしい。

良かった……!


そう安堵したのと同時に、全身に走っていた緊張が、パチンと解ける。

と同時に、ふら、と体の軸が傾いて。


「──っ、と」


反射的に伸ばした篤彦の腕に、ドサッと抱き止められた。

ふわ、と間近で漂う、大人っぽくて掴みどころのない端正な香り。

私を胸に抱くようにしたまま、頭上から再度ため息が落ちる。


「……ほんまに最悪や。なんで泥酔中の中学生に言い負かされなあかんねやろ」

「や、潰そうとすんのがわるいでしょ……」


霞む思考の中、ふやふやした口調でなんとか口答えするけれど、もう既に酩酊感が全身に回って呂律すら回らない。


「なーに、呂律回ってへんけど?」

「だれのせー、だと……」


なんとか言い返そうと篤彦を見上げたところで、ようやく、私たちがかなり近い距離にいることを思い出して。

バッ、と反射的に顔を逸らしてしまう。


そんな私を前に、ちょっと目を見開いた後──

少し面白そうに揶揄ってくる篤彦。


「今照れた?」

「な、ちがっ……」

「……へぇ。ずっとそんな感じやったら可愛いのに」

「っ、ほんと、帰るから……」


バカにされている感じがして、ムッとして押しやると、篤彦はあっさり離れてくれた。

今までこうやっても離れてくれない男ばっか相手にしてたから、当たり前のことだろうになんだか変な感じ。