私の瞳に焦点が戻ったのを感じたのか、余裕綽々で頬杖をついていた篤彦が、ぴく、と片眉を上げた。


「……取引?」


怪訝そうな篤彦に構わず、私は冷静に、あらかじめ用意してきたカードを切る。


「こっちは、峰間京が寮で峰間京が寮で女の子と通話していた時の録音も、皆戸遥風が栄輔を突き落とそうとしていた時のトーク履歴も持ってます。

──その気になれば、二人を炎上させてこの番組から降ろすことだってできるってことです」


そんな私の言葉に、私が言わんとしていることを理解したのか、ふっと少し口角を緩める篤彦。


「彼ら二人無しで『最高のグループ』が作り上げられるというのなら、私の男装を報告してもらっても構いません。ただ……そんなスキャンダルだらけのオーディション番組から出たグループを、世間が受け入れてくれるかどうかは分かりませんが」


もし篤彦に弱みを握られた時には、京と遥風の二人を盾にしようと事前に決めておいて本当に良かった。

泥酔させられた後じゃ、流石にそんな機転はきかせられなかっただろうから。

と、そんな私を前に、篤彦は面白そうにくすくす笑って。


「……泥酔中に、ようそんな頭回るなぁ」


と、感心したような口調で言ってきた。

ただ用意してきた言葉をつらつら並べただけだから、その場で思考できてるわけではないんだけど……

それでも、なんとか矛盾なく主張はできていたらしい。


ほっ、と胸を撫で下ろすけれど──


「ただ……申し訳ないけど正直、京と遥風くんはそこまで必須でもないかな。最悪、翔くんと二人だけでデビューするのもアリやなって思ってる。てか、なんならその方が危険因子少なくて盤石やし」


と、形勢逆転の衝撃発言が投下され、うっと言葉に詰まった。

……一番あって欲しくなかったことが起こってしまった。


遥風はともかく、篤彦と京は仲が良いから、京がいなくなってしまったら痛いんじゃないかと踏んでいたけれど。

こう言われてしまったら、もう私は打つ手がない。



ただ怯えて、私の男装が世間にバレるのが今か今かと怯えることができなくなる──


ところだった。